もうクラスのほとんど全員が席についていた。

あと一分もしないうちに授業担当の先生がやって来るだろう。


早く席につかなきゃ、授業の準備をしなきゃ。


無理やり足を踏み出して席に向かおうとした途端、よろける。

それで、足が震えていることに初めて気がついた。

指先もがたがたと震えている。


なんで、と唇を動かすと、マスクがかさりと乾いた音を立てた。


なんとか自分を励まして、震えたまま一歩、二歩と踏み出す。

ざわざわとした教室の中に入る。


幸いみんな教科書やノートの準備に気をとられているようで、私の不審な動きに気づいてはいないようだった。


それでもちらちら見られている気がする。

『あいつなんか変じゃない?』と囁かれている気がする。


鼓動も呼吸も、ひどく速い。

頭に血が昇ったようにぼうっとしている。


それでもなんとか椅子に腰を下ろして、引き出しの中から教科書と筆箱を取り出した。

と同時に先生が入ってくる。

チャイムが鳴った。


「はーい、授業を始めます。委員長さん、挨拶お願い」


英語の女の先生が私のほうに視線を走らせる。

私はふらつかないように細心の注意を払いつつ、ゆっくりと立ち上がりながら「起立」と号令をかけた。


……つもりだったのに、声が出なかった。


沈黙の流れる教室の中で、私ひとりが机に手をついて立っているという、不可思議な状況になる。