中でわっと沸き上がるような笑い声が上がった。

今なら多少の物音がしても気づかれないだろうと思い、私はよろよろとその場を離れる。


俯いて自分の激しい鼓動と闘いながら歩いていると、どんっとなにかにぶつかった。


「茜?」


耳のすぐ上で声がする。

青磁の声だ。


少し顔をあげると、すっかり見慣れた平べったい胸がそこにあった。


なにか言わなきゃ、と思うのに、声が出ない。

は、と息を吐いたら、やけに苦しげな声が洩れてしまった。


「どうした?」


青磁が眉を寄せて、私の顔を覗きこんでくる。

なんでもない、と囁きだけで答えたけれど、ごまかせなかった。


「なんでもないって顔じゃねえだろ。腹でも痛いのか」


そういえば前も訊かれたな、『腹でも痛いのか』って。

なによそれ、小学生じゃないんだから。


笑ってやろうと思ってマスクの中で口を開いて、でも唇から洩れたのは笑い声ではなくて、かすかな嗚咽だった。


「……う、」


その瞬間、青磁の目が大きく見開かれる。


「……茜?」


いつもぶっきらぼうなその声が、いつになく柔らかく耳許で響いて、

そしたらもう、こらえきれなくなってしまった。


たがが外れたように、抑えていたものがこみあげて、溢れ出す。