なかば呆れ返りながら聞いていたけれど、しばらくして、彼女たちの声のトーンが変わってきたあたりから、心臓が落ち着かなくなってきた。


「たしかにあの子って、なんかクールな感じ気取ってるよね」

「あー、なんとなく分かるかも」

「そういえばそうかもね」

「私は他の人と違います、みたいな?」

「あははっ、そんな感じ!」


どくどくどく、と激しく脈うちはじめた鼓動の音が頭の中にこだまする。

悪意のある噂話になっていくということは容易に想像できた。


「いい子ぶりっこだよね。真面目だし責任感あるし、みたいな感じにしてる、いつも」

「いかにも優等生! って顔してるもんね」

「なんかさあ、青磁くんには似合わなくない?」

「分かる! ずっと思ってたんだ、それ」

「やっぱり?」

「なんだ、みんな思ってたんだ。なんかさあ、あの子ってみんなから好かれてる感じするから、なんとなく悪いこと言いにくかったけど」

「それ!」

「でも、実は嫌われてたりして」

「あー、あるかもね」


嫌だ、もう聞きたくない。

でも、身体が動かない。


私は足の裏を廊下に縫いつけられてしまったかのように、微動だにできなかった。


「だってほら、いっつもマスクつけてるじゃん。なんか、本心見せないっていうか、裏でなに考えてるか分かんないよね」


そう言った声は、去年同じクラスだった女子のものだった。

けっこう仲は良いほうで、よく一緒に行動するグループに入っていた。