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昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。
職員室に行くために、ある空き教室の前を通っていた私は、そこで思わず足を止めた。
中から、『青磁』という単語が聞こえてきたからだ。
どうやら、この教室でいつも弁当を食べている女子グループが、青磁の噂話をしているらしい。
立ち聞きをする趣味はないので、私は再び歩き出そうと足を踏み出す。
でも、次に『茜』という単語が耳に飛び込んできて、全身が硬直してしまった。
自分が裏でどんな話をされているのか、考えるだけで怖い。
知りたくない、知らないほうがいい。
頭では分かっているのに、身体が動いてくれない。
「えっ、まじで!? うっそお!」
驚いたような声が一斉にあがった。
私はさらに動けなくなる。
「本当だよ! A組の子が言ってたもん。最近めっちゃ仲良いって」
「えー?」
「D組の子も見たって、放課後ふたりでどっかに行くところ」
情報をつかんできたらしい一人が、みんなを納得させようと必死に訴えている。
「あの青磁くんと茜ちゃんが?」
「付き合ってるの?」
「そうそう。意外だよねー」
ああ、やっぱりそういう話か、と私は心の中でため息をつく。
もう耳にたこだ。
どうしてみんな、男子と女子が仲良くするだけで、すぐに『付き合ってる』と言い出すんだろう。
そうじゃないと否定したら『友達』。
そんなふうに単純明快に分けられるものでもないのに。