彼に腕をつかまれたことは何度かあったけれど、いつも手首や肘のあたりだった。

だからか、身体の中心に近い二の腕をつかまれたことに、不覚にもどきりとしてしまう。


「……ありがと」


とりあえず、助けてもらえたのだからお礼を言う。


でも、顔が見られなくて視線を逸らしてしまった。

本当に不覚だ。


青磁は「ん」と言って手を離した。

それきり彼がなにも言わないので、どこか気まずい沈黙が流れる。


「きゃー! なになに今の!」


沙耶香の声が沈黙を破ってくれた。


「茜、どついてごめんね! でもでも、良いもの見れちゃったー!」

「……や、良いものって……」

「青磁、やるじゃん! かっこいー! 茜を守ったね」

「………」


ひとりで盛り上がる沙耶香と、なにも言えない私と、まったく聞こえていなさそうな青磁。


「ねえねえ、やっぱり二人、いい感じなんじゃないの?」

「いやいや……」


目の前で誰かが転びかけたら、たぶん誰だって咄嗟に手を伸ばすんじゃないかな。

とは思ったものの、それを口に出すと、せっかく助けてくれた青磁に申し訳ない。


「んー……本当にちがうんだけどね……」


仕方なく独り言のようにぼやきながら、私は彼らと一緒に校門の中に入った。