「一回さあ、ちゃんと見てみろよ。夕焼けはオレンジ色なんて、そんな単純なもんじゃないんだぞ」


なぜか自慢げに青磁が言う。

私は少し考えて、鞄から携帯電話を取り出した。


お母さんに『今日ちょっと遅くなってもいい?』とメッセージを送ると、しばらくして『いいよ』と返事が来た。


ここのところずっと家の手伝いを頑張っていたから、今日くらいさぼってもいいよね。

そう自分を納得させながら『ありがとう』と返信した。


青磁はスケッチブックの新しいページをめくり、また空を描いている。

さっきとは違う手法で、絵の具をあまり水で薄めずに、白と灰色を塗りつけるようにして、紙の上に雲を出現させる。


「ねえ、青磁」

「んー?」

「青磁っていつも空の絵、描いてるね」


文化祭のときに展示していた絵も、毎日の放課後に描いている絵も、いつも空の絵だった。


「まあ、そうだな」


青磁は描きながら答える。


「そんなに空ばっか描いてて飽きないの?」


いつも疑問に思っていたことを、真剣な横顔に投げかけてみた。

青磁はちらりと私を見て、「飽きねえよ」と答えてからまた視線を戻す。