「なあ、茜。夕焼けって何色だと思う?」


唐突に青磁が言った。

でも、青磁はいつだってなにをするにしたって唐突なので、最近は彼がなにを言い出しても全然驚かなくなった。


「夕焼け? そりゃオレンジ色でしょ」


あまりなにも考えずにそう答える。

夕焼けは何色か、と訊かれたら、たぶん誰だって『オレンジ色』と答えるんじゃないだろうか。


でも、青磁は私の答えを聞いた途端に、してやったりとばかりににんまり笑った。


「単純なやつだな」


ふふんと鼻で笑われて、むかっとくる。

単純だなんて、青磁にだけは言われたくない。


「じゃあ、なに。夕焼けは炎の色とか? あ、恋に焦がれる色とか」


古典かなにかの授業で聞いたことがあるような気がして、思いつきでそう言うと、

「文学的!」とげらげら笑われてさらにむかついた。


「そういうことじゃねえよ。お前、夕焼けちゃんと見たことねえの?」


そう訊ねられて、ふと考えてみると、そういえばじっくりと夕焼けを見たことなんてなかった。

日が暮れはじめるころには、私は玲奈のお迎えや夕食の準備のためにもう帰宅している。

家のことを始めたら、空を見るどころではない。


この屋上で青磁が絵を描くのを見るようになってからも、日が暮れる前に学校を出ていた。

夕焼けの頃には地下鉄の中だから、空は見えない。

家に着く頃にはすっかり薄暗くなっている。