少し前までの私だったら、確実に、『ひとから貰ったものに対してそんな言い方するなんて、こいつ最低』と忌々しく思っていただろう。


でも、今は違う。

こういうふうに何の計算もなく素直な気持ちを口にする青磁に、妙な安心感を覚えている。


常に人の顔色を窺って、言葉の裏にどんな気持ちを隠しているのか、私のことをどう思っているのか読み取ろうと必死になっている私にとっては、

彼のように言葉と感情が直結している人間は、そういう邪推をしなくてもいい貴重な存在だった。


青磁はきっと嘘をつかない。

他人にも嘘をつかなしい、自分の気持ちにも嘘をつかない。


だから、青磁といると、私は落ち着ける。

裏の気持ちを勘ぐったりしなくていいから。


「あーもう、まじでゲロまず」


青磁はまだしかめっ面をしている。


「ひとから貰ったものにゲロとか言うな」と私が真っ当な言葉を返すと、

「貰いもんだろうがなんだろうが、まずいもんはまずいんだよ」

「あげたほうにちょっとは気い遣いなさいよね」

「でも、正直に言ってやったほうが親切だろ? お前はもう二度と、他人にそんなまずいもん飲ませずに済むわけだからな」

「はあ?」

「そんなくっさい飲み物を他人にあげるなんて、嫌がらせとしか思われないぞ。いい勉強になったな」


うんうん、と満足げに頷く青磁がおかしくて、私はまた笑った。


彼には独自の哲学と価値観があって、それは誰になにを言われても揺るがないほどに強固なのだ。

ここまで頑なだと、苛立つよりも笑えてくる。