「喉が渇いた」


一時間ほどが経ったころ、集中していた青磁がふいに手を止め、思いついたようにそう言った。


彼は画材しか持ってきていないので、飲み物などは持っていない。

かといって、今から美術室に戻るのは面倒だ。


私は鞄の中を探って、ジャスミンティーのペットボトルを取り出した。


「これ、良かったら飲む? まだ開けてないやつ」

「お、いいの? サンキュ」


青磁は遠慮せず受け取り、さっさと蓋を開けた。

『え、でも、悪いし……』みたいな社交辞令など言わないところが青磁らしい。


でも、一口飲んだ瞬間、彼は顔をしかめた。


「うわっ、なんだこれ。まずっ! くせえ!」

「えー?」


別に腐っているとかはないはずだ。

怪訝に思って見ていると、青磁はまるで苦い薬でも飲み下すときのような表情でなんとか一口を飲みきると、そのままペットボトルを突き返してきた。


「なんだこの飲み物! 変なにおいする!」

「なにって、普通のジャスミンティーだけど……」

「知らねえよ。ってかくさい。風呂の残り湯でも飲んでるみてえな気分なんだけど」

「あー、入浴剤の香りに似てるから?」

「それ! あーもうまじでくさい、気持ち悪い」


舌を出して「うえ~」とうめく、子どもみたいな青磁を見ながら、私はおかしくなって声をあげて笑った。