青磁があぐらをかいて背中を丸め、黙々と絵を描き始めた。


彼は筆を手にすると、がらりと表情が変わる。

硝子玉の瞳がさらに透き通り、何かに取りつかれたように筆を動かしつづける。


その瞬間の彼を見るのが面白くて、私はいつもその様子をじっと観察していた。


青磁は油絵も描けるらしいけれど、基本的には水彩画ばかりだ。

『水彩はどこでも描けるのがいい』と言っていた。

屋上に画材を持ち出して絵を描くには、確かに水彩画のほうがいいのかもしれない。


スケッチブックを広げて、刷毛に水をたっぷり含ませ、横方向にさっと滑らせて白いケント紙を濡らしていく。

そこに今度は、絵の具を含ませた平筆を軽く滑らせ、薄く色をつけていく。

上半分には青を、下半分には淡い黄色を塗ると、たっぷりと水で湿った紙の上で、二つの色がじわりと混じっていく。


しばらくすると、そこに空が現れた。


青磁が空を描く様子は、何度見ても飽きない。

私は毎日、何時間でも、彼が絵を描く隣でその様子を眺めていられた。

自分でも、なにをしているんだろう、早く家に帰ればいいのに、と思うけれど、この場所とこの空気感の心地よさから逃れられない。


授業中ずっと気を張っている反動なのか、放課後にこうやって何も考えずにぼうっとする時間が、なくてはならないものになっていた。