青磁が画材の準備をしているので、私は真ん中あたりの窓の近くに座っていることにした。

九月も終わりが見えてきて、少しずつ夏が遠ざかり、吹き込んでくる風にも涼しさが交じっている。


心地よさに目を細めていると、同じように窓の外を見ている遠子ちゃんの姿が目に入った。

彼女の視線を追っていくと、その先にはいつも、グラウンドで練習している陸上部員たちの姿がある。

もっと言えば、棒高跳びの練習をしている一年生の男子。


静かに、でもひたむきに視線を彼に注ぎつづける彼女を見ていたら、マスクの中の口許に自然と笑みが浮かんだ。


「青春ですなあ」


思わず呟くと、前のほうから「青春ですねえ」と小さく答えが聞こえてきた。

里美さんが私と同じように微笑みながら遠子ちゃんを見ている。

遠子ちゃんには聞こえていなさそうだ。

私は里美さんと目を合わせて小さく笑った。


遠子ちゃんはきっと、あの男の子のことが好きなのだろう。

ただ見つめているだけの姿から察するに、たぶん片想いだ。

内気そうな彼女のことだから、自分から彼に想いを告げるなんて難しそうだ。

だから見ていることしかできないのだろう。


大人しいけれどちゃんと挨拶をしてくれるし、いつも真面目に絵の練習をしているし、絶対にいい子だと思うから、いつかは彼と上手くいってくれるといいな。