「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ! いつまで引きこもってるつもり? そろそろ目え覚ませ! 覚まさないならせめて家のこと手伝え! 何いっつも他人事みたいな顔してんのよ馬鹿ーっ!!」


学校で何があったのか知らないけれど。

本当につらい思いをしたのかもしれないけれど。


そろそろ新しい段階に踏み出してほしかった。

いつまでも家の中に引き込もって、あんなにぼんやりとした様子を見ているのは、もう嫌だ。


子供の頃は、サッカーが上手で優しくて、友達からも羨まれる私の自慢のお兄ちゃんだったんだから。


「お父さんもーっ!」


初めて、『お父さん』と口に出した。

目の前にいないから言えたんだろうと思う。


「お父さん……は、何もない! いつも優しくしてくれてありがとう! これからはもっとたくさん話そうね!!」


私からもっと話しかけよう。

そして、頑張って『お父さん』と呼びかけてみよう。

声に出して。


自分の叫びを吸い込んだ青空を見上げていると、隣で青磁が耐えかねたように噴き出すのが聞こえた。


「……なに笑ってんの」

「いや、だって」


くくくと笑いをこらえながら青磁が言う。


「お父さんにはねえのかよ、文句」


なんとなく気恥ずかしくて、「べつにいいでしょ」とそっぽを向いた。