「あ?」と青磁が眉をあげる。


こんなことを言うつもりはなかったはずなのに、一度口を開いてしまったら、止まらなくなった。


「……私がこんなになっちゃったのは、青磁のせいでしょ!」


青磁は腕組みをしたまま、険しい顔つきで黙って私を見つめている。

反論がないのをいいことに、私の口は勝手に喋り出した。


「私がマスクを外せなくなったのは、青磁が私のこと嫌いだとか言ったからでしょ!!」


言葉がどんどん溢れ出して、止まらなくなる。

今まで誰にも言ったことがなかったことが、ずっと飲み込んでいたはずの思いが、どんどん溢れ出してくる。


「私は……ちゃんとしてたのに。誰にも嫌われないように、頑張ってたのに。いつも笑って、感じ良くして、嫌われないようにしてたのに。なのにあんたが、あの日、私のこと嫌いって言ったから……!」


未だに忘れられない、あの時の衝撃。

よく知りもしない、同じクラスになったばかりの青磁に、『お前のこと嫌い』と面と向かって言われた衝撃。


そのときはなんとか取り繕って、受け流した。

それからしばらくして、風邪を引いてしまい、咳がひどかったのでマスクをつけて登校した。


一週間ほどで風邪は治った。

でも、マスクは外さなかった。外せなかった。


それ以来ずっと、マスクをつけたまま生活している。

どんなに暑くなっても、体育の授業のときも、お弁当を食べるときも。