文化祭の喧騒は、遥か遠くに去ってしまったように、ぼんやりとしか聞こえない。


この広い世界に、青磁とたった二人きりでいるような錯覚を覚えて、思わず笑ってしまった。

よりにもよってこんなやつと、いちばん大嫌いなやつと、世界で二人きりになるなんて。


「なに笑ってんだよ」


マスクを押さえて笑いを噛み殺していたけれど、気づかれてしまったようだった。


「べっつにー」


ふふふと笑いながら答えると、青磁が目を細めた。

それからすっと顔を背ける。


「笑ってるの、……初めて、見た」


ぽつりと青磁が言った。

私は目を見張って「え?」と首をかしげる。


「お前が笑ってるの、見たこともなかったからな」


白い髪が風にさらさらと揺れた。


「そんなことないでしょ……」


私は首をかしげながら答える。


青磁は何を言っているんだろう。

どちらかといえば、私はいつも笑っているほうだ。


友達にも『いつもにこにこしてるよね』と何度も言われてきた。

にこにこ、というよりは、へらへら、かもしれないけれど。


どちらにしろ、私は教室では笑顔を絶やさないでいたつもりだ。

それなのに、私が笑っているのを見たことがないというのは、どういうことだろう。

青磁に向けて笑ったことがない、ということを言っているのだろうか。


「そんなことある。お前は笑ってない。少なくとも高校では、一回も笑ったことがないだろ」