「どうだ、世界は広いだろ」


ふふん、と青磁は笑って言う。


「別に青磁の世界じゃないのに、なんでそんなに自慢気なのよ」


空を見つめながら憎まれ口を返すと、青磁は「ばーか」と笑った。


「この世界は俺のものだ。俺の目に映る世界は、全部俺のものだ」


またえらく自分勝手なことを言い出したものだ、と呆れていると、「茜」と呼ばれた。

振り向くと、青磁が、見たこともないくらい穏やかな瞳で私を見つめている。


それから、果てしなく広がる景色を指差した。

にやりと笑って言う。


「この世界は、お前のものだ」


思いも寄らない言葉に、私は目を見開いた。


「……何、言ってんの。この世界は青磁のものなんでしょ」


ついさっき青磁自身がそう言ったばかりだ。

でも彼は私の言葉に頷き、さらに続けた。


「世界は俺のものでもあるし、お前のものでもある」

「はあ?」

「さらに言うと、どっかの誰かさんのものでもある」


青磁は緩く微笑みながら、屋上のふちに立って世界を見下ろす。


「そいつの目に映る世界は、全部そいつのものだ。だって、他の誰が見る世界とも違うんだから、そいつだけのものだ。そうだろ?」


両手を大きく広げて白い髪を風に靡かせる後ろ姿は、まるで、今から飛び立とうとする真っ白な鳥のようだった。


「だから、お前の目に映るこの世界は、ぜーんぶお前のものなんだよ」