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「……ちょっと、青磁」
うず高く積まれた段ボールや教材の間を泳ぐようにすいすいと通り抜けていく、細長い背中に声をかける。
「ねえ、ここって資料室か何かだよね」
埃っぽいにおいがする、カーテンに覆われた薄暗い部屋。
美術室がある旧館一階から階段をのぼってきて、ここは三階だ。
旧館の三階なんて、たぶん生徒は誰も足を踏み入れない。
授業で使われる教室もないからだ。
この部屋は見たところ、古い資料や使われなくなった教科書などを保管しておく物置のような場所らしい。
つまり、先生たちが使う部屋だということだ。
「こんなところ、入っていいの?」
生徒の立ち入りは禁止されているのではないかと不安になって訊ねる私に、青磁は「知らん」と即答した。
「けど、別にいいだろ。学校はみんなのもんだから、入っちゃいけないところなんてねえんだよ」
「なにその論理……ほんと青磁って自分勝手だよね」
「それの何が悪い。俺は俺のしたいことをするんだよ」
少しも悪びれずに言うので、呆れてしまう。
まともに取り合うのも馬鹿らしくなって、私は口をつぐんだ。
そうしているうちに、青磁は荷物だらけの部屋を横切って、窓のカーテンの前に立っていた。