そう思ってから、再び彼の絵を見る。


綺麗で、ひどく繊細で、どこか切ない絵。

でも、そこには、美しい景色と出会った喜びが確かに描かれていた。


彼の絵には、あらゆる感情が満ち溢れていた。


青磁には心がないわけじゃない。

私は彼のことを見誤っていた。


「嫌いなんじゃなくて、苦手なの」


私は頬杖をついて青磁の絵を見上げながら、彼に言った。


「青磁は私とは正反対だから……。いつだって言いたいこと言って、やりたいことやって、やりたくないことはやらない。そういうところが苦手」


青磁は、ふん、と鼻を鳴らして首を傾げた。


「お前がいけないんだろ。お前はいつも言いたいこと言わずに、やりたいことやらずに、ぜーんぶ我慢してるじゃないか。くだらねえ」


見透かされている。


この硝子玉のようなまっすぐで透明な瞳には、嘘はつけない。

彼の目は、嘘をつかないから。


きっと嘘をつかない瞳だけに、こんなにも綺麗なものが見えるんだ。


嘘ばかりついてきた私の瞳は曇ってしまって、綺麗なものが見えないんだ。


「――青磁が見てる世界は、こんなに綺麗なんだね」


ぽつりと呟くと、青磁がにんまりと笑った。


「分かったよ」


唐突にそう言って、彼はいきなり立ち上がった。

窓いっぱいの光を背に受けて、逆光の中の影になって、私に手を差し伸べる。


「今からお前に、世界の全てを見せてやる」