「俺は、天才だからな」


にやりと笑って冗談めかして言った彼に、私は静かに返す。


「うん……青磁は天才だ」


青磁は意表を突かれたように目を丸くした。

でも、私は思った通りのことを言っただけだ。


紛れもなく、彼には天賦の才があると思った。

美術のことには全然詳しくないし、どんな絵が素晴らしくてどんな絵が駄作なのか、なんにも知らないけれど。


それでも、青磁の絵には、ひとの心を揺さぶってやまない圧倒的な力があると思う。

その人柄と同じように、みんなの目も心も惹きつけてやまない、自由奔放で独特の力がある。


素人でも分かる。

きっと、彼は天才なのだ。


だから、これほどまでに私の心をわしづかみにするのだ。


「……なんだよ、急に」


困ったような表情をする青磁が珍しくて、思わずまじまじと見てしまう。

彼は「なんなんだよ」と顔をしかめた。


「お前、そんなんじゃないだろ」

「なによ、そんなんじゃないって」

「だって、お前、俺のこと嫌いだろ。だからいっつもしかめっ面して俺のこと見てくるじゃないか」


少し驚いた。

青磁にも、自分が嫌われているとか、そういう人の心の機微を読み取る力があったのか。


彼はいつも自分勝手で、他人のことなんか構わずに行動しているイメージだったから、人の気持ちを察することなどできないのだと思っていた。