……ていうか……。

「は?」

この人、今、なんて呼ばれた?

「桐谷先輩……て、呼ばれたのに、なんで……」

もしかして、もしかしなくても、と目で訴える私に、
「はーい」
と、無表情のくせに首を可愛くかしげながら小さく挙手する葉っぱ男。
すっと立ちあがり、入り口へと歩いていく。私は、彼のうしろ姿を穴があくほど見ながら、ポカンと立ちすくむ。

「…………」

あー、はいはい。いるもんね、男で『はるか』って名前の人も。
そっか、……そっか。彼が……桐谷……。

「わっ、大丈夫? 水島ちゃん」

少しふらついたところを、近寄ってきていたまり先輩が支えてくれる。

「大丈夫じゃ……ないかもです」

そう言いながら横目で見た桐谷先輩の絵は、ビンのふちを押し当てたところがアクセントになっていて、やっぱり素敵なことに変わりはなかった。

「それより水島ちゃん、バスの時間……」
 
私は力なく掛け時計を見あげる。

「……過ぎてますね」