「あら、食べてて、って言ったのに」

1時間もせずに帰ってきたお母さんは、そう言ってパタパタと3人分の食事の準備に取りかかった。お父さんは明日、知り合いのお葬式があるとのことで帰ってきたらしい。お母さんは、私が塾を休んだことには触れずに、そんな話をしながらお父さんの前に皿を並べていった。私は手伝いながら、返事と相槌だけを返した。

食事中は、お母さんがお父さんに仕事のことについて聞いたり、お姉ちゃんの様子について話したり、ほぼそんな感じで終わった。お父さんに一回だけ「沙希はどうだ? 学校のほうは」と聞かれたけれど、私は「うん、まぁまぁ」と曖昧な返事をしただけだった。



「なんで、今日も休んだの?」

お母さんに冷ややかな声でそう聞かれたのは、食事を終えて、お父さんが電話で席を外したときだった。

長方形のテーブル、いつもなら向かいあって座っているけれど、お父さんがいるから横に並んで座っているお母さんは、紅茶を飲む横顔のままで私の返答を待っている。

「ちゃんと話してくれるんでしょ?」
「……うん」

高圧的な語調に委縮してしまった私は、またいつものように顔を強張らせて、次の言葉がスムーズに出てこない。そして、その沈黙を縫うように、お母さんがすかさず、
「また絵のモデル? あの男の先輩の」
と言ってきた。