教科書に接着剤を塗りつけられて困ってる文乃を遠巻きにしたり、先生の誰それが実はエンコーをやってるっていうネもハもないウワサで盛り上がったり、未歩と真衣のケンカの仲裁をしたりお母さんに怒られたり、

そんなことを繰り返しながらあたしの毎日はだらだらと過ぎ季節はちょっとずつ冬に向かって進んでいく。


毎日、とりたてて面白いことなんかない。つまらないことはいくらでも起こるのに面白いことや楽しいことはびっくりするほど起こらない。


たとえば好きな人がいたり部活に打ち込んだり、そういうことが出来たら中学生活もっと楽しくなるんだろうけれど、あたしは残念ながらまだ好きな人はいないし、吹奏楽部だってあんまり頑張れない。頑張ろうという気持ちが起こらない。


「はいじゃあ今日はここまで。明日はこの続きの二楽章からね」


 顧問の先生が指揮棒を置いて放課後練習の終了を告げ、部長が号令をかける。楽器や楽譜を片付けながらみんな、電線の上のスズメみたいにひっきりなしに口を動かし、おしゃべりに余念がない。


夏のコンクールが終わり秋の定期演奏会が終わり文化祭での発表も終わり、この時期の吹奏楽部は、暇だ。夏のコンクール前は先生もそれなりに厳しいし練習も大変だったけど、今はひと山越えて全体的にちょっとダレている感じ。


 時々、自分は団体行動に向いてないんじゃないかと思う。そりゃ部員である以上ちゃんと練習には参加するけれど、朝練のために早起きしなきゃいけないのもコンクール前は土日まで部活があるのも、正直だるくて仕方ない。


みんなが「コンクール頑張ろう!!」って一生懸命やってるから、空気読めないヤツと思われたくなくて合わせてるだけ。今年の夏に地区予選敗退した時はそりゃあ悔しいとは思ったけれど、その気持ちは持続せずせいぜい一週間もすれば泡のように消えて、夏のコンクールシーズンが早く終わったことを喜んでた。県退会に進むと、厳しい練習が夏休みの後半まで続いちゃうから。


 こういうやる気のなさは二年生の間では多かれ少なかれ共通していて、風花なんて時々あからさまに「あー部活ダルいー。早く三年になって引退したーい」なんて言うから、あたしのこのクールさは決して特別じゃない。


でも時々ふいに自分を振り返ってみて取り立てて好きなものも夢中になれるものも将来の夢もないことに改めて気付くと、あたしという人間が急にむなしい存在に感じられて、寂しくなる。まぁその寂しさだって心の病気になるほどのものじゃなくて、県大会に行けなかった悔しさと同じ、一時の感情なんだけど。


「ねぇね、この後クレープ食べに行かなーい?」


 トランペットの手入れを早々と終えた風花が立ち上がり、うきうきと言う。行く行く、と愛結と睦が反応する。


「行く行く! 今さ、ブルーベリーキャンペーンってのやってるよね」


「えー愛結、ブルーベリー好きなの? わたし苦手。チーズケーキがいい」


「風花ぁ、あたしたちも行っていい?」


 フルートの佑香が言う。佑香が行くってことは、同じフルートパートの麻奈とみずきも行くんだろう。風花は二つ返事で頷く。


「いいよいいよ、みんなで行こっ! そしてみんなで太ろうー」


「何よ風花ってば、ぜんっぜん太らない体質のくせして。あたしの肉を分けてやりたいわ」


 ちょっとぽっちゃり体型の佑香がお肉をつまむ仕草をして、麻奈がほんと細いよねーと風花のお腹を触ろうとして、風花がやめてよぉと腰をよじって逃げている。美晴が分解したクラリネットをクロスで拭きながら、こっちに顔を向けた。


「亜沙実も行くでしょ?」


「もち! 久しぶりだなぁクレープ」