床が終わった後壁も舐めさせた。家から持ってきた洗濯ばさみを河野の乳首とあそこにつけて引っ張って遊んだ。コーラとフリスク三箱を買ってこさせてフリスク三箱をいっぺんに河野の口に入れ上からコーラを流し込むと、河野は何十個ものフリスクが舌の上ではじける痛みに転げまわった末、わんわん泣きながら床に白っぽい液体を吐き出してしまった。もちろん自分で片づけさせる。

 廃墟で河野をいたぶっているとつい時間を忘れそうになるけれど、あんまり帰るのが遅くなって河野の親に怪しまれても困るので、ほどほどで切り上げて帰る。それに日が暮れると地元のヤンキーとか暴走族とかガラの悪い連中が廃墟に集まってくるから、彼らに鉢合わせしないうちにおいとましなきゃいけない。

寒いのとちょっとの不便とを除いたら、『ホテル パステル』の跡地は河野いじめのステージにぴったりだった。最初は家に引っ張り込んでやってたけれど、同級生や近所の人に見つけられてあらぬ噂を立てられるのはむちゃくちゃ不愉快なので、『ホテル パステル』を見つけてからはずっとここに河野を呼びつけている。

 明菜たちと別れてから二時間も経ってないのに家に帰りついた頃は既に夕闇はすっぽり地上を覆っていて、うちがある十五階建てマンションが紺色の夜の中白い光を放っている。再開発が進んでいるこの辺りは十階建てとか十二階建てとかの新しくてきれいなマンションが珍しくないけれど、うちのマンションが一番きれいで背も高い。この最上階の角部屋が、わたしとお母さんの家だ。

 エントランスにいる管理人さんはわたしの顔をちゃんと覚えていて、こんばんはと子どもには普通しないような礼儀正しくて他人行儀な挨拶をする。オートロックは二重、管理人さんは三、四人ぐらいいて二十四時間誰かしらがエントランスに常在。セキュリティはばっちりだし、東京でもなかなかの田舎なこんな町にあるけれどお母さんの仕事場までは快速に乗れば一時間、立地もまぁいいほうだ。

 ここに越してきたのは小四になった春で、荷物の片付けがひと段落した後お母さんは普段あんまり飲まないビールを空け、顔を赤くしながら半分回ってない呂律で言ったっけ。

「このおうちはね、お母さんが働いて働いて、節約して節約して買ったものなの。前のせっまいマンションとは違うのよ、なんたって持家なんだもん。文乃は恵まれてるのよ、母子家庭でこんないいところに住めるんだから、しかも持家! 夜のお仕事なんかしちゃったり生活保護をもらってやっと暮らしてるような母子家庭の人、たっくさんいるんだからね。うちは持家なのよ」

 持家、持家と馬鹿みたいに繰り返してたけど、要はこれだけ働いてがんばって育てていい家に住まわせてやってんだから、親の自分に感謝しろよってことなんだろう。そんなの、親なんだから当たり前なのに。

わたしが生まれたいって言って生まれたわけじゃない、自分が勝手に生みたいって言って生んだんだから、がんばって大変な思いして育てるのは当然の義務だ。お母さんのことは別に好きでも嫌いでもないけれど、時々こういう恩着せがましい言い方をするところは本当にうざい。