「あんたはいらなくても、蒼ちゃんはいるの」
「うっさいなあ!」
勢いよく立ち上がったホタルが、わたしの目の前にずいっと顔を突き出してくる。
「蒼ちゃん蒼ちゃん、しつこいんだよ!」
「……っ」
きつい言葉遣いよりも、顔の近さの方に不覚にも息をのんでしまった。
当然だけど蒼ちゃんとはこんな距離になったことがなかったから。
鋭い眼光、不機嫌に上がった眉。
顔の造りが美しい分、至近距離でにらまれると迫力がすごい。
わたしがひるんで黙りこんだのを見ると、ホタルは再び腰をおろした。
そして、ぶつぶつと文句を言いつつも、観念したようにブロッコリーに箸を突き刺したのだった。
* * *
どうやらハンバーグ以外は、彼にとって苦行でしかなかったらしい。
顔をしかめながらもついに完食すると、“どうだ、これで文句ないだろ!”的な態度で、椅子の背もたれにふんぞり返った。
「お疲れさま」
食後にかける言葉としては変だけど、一応、労いは見せておこう。