左手の傷。左手。
そうだ、そういえばあのとき――


「……左利きだった」

「え?」


おばさんがきょとんと首をかしげた。
わたしは勢いよく立ち上がり、テーブルに両手をついて身を乗り出した。


「普段の蒼ちゃんは右利きですよね? 左利きじゃないですよね?」

「え、ええ……そうだけど。急にどうしたの?」


不可解な表情で質問を返すおばさん。
わたしは返事すら後回しに、ぶつぶつと唱えながら記憶をさかのぼる。

あのとき――放課後の教室で別人のような蒼ちゃんに会ったとき。

彼の態度がいつもと違ったのは、わたしに対して怒っているせいだと思っていた。

だけど、細かい部分まで思い出してみれば、奇妙なことがあるのだ。

あのときわたしの口を押さえたのも、壁を叩いたのも、手紙を受け取ったのも、全部左手だった。