教室の扉は閉じていた。
鍵がかかっているのかと一瞬不安になったけれど、試しに引き戸に手をかけてみると、あっさり開いた。
よかった、まだ戸締りしてなかったんだ。
ホッとしながら教室に足を踏み入れようとしたわたしは、けれど次の瞬間、違和感に気づいて足を止めた。
……最初、それは何か大きな影のように見えた。
窓から射しこむ西日が、教室内を錆びた赤色に染めている。
机や椅子の陰影が二色刷りの版画のように黒くなり、わたしの席のあたりにも大きな影がかかっている、ように見えた。
人間だということに気づいたのは、それがゆらりと動いたからだった。
「っ――」
飛び出しかけた悲鳴は、相手の手のひらで口を押さえて封じられた。
行き場を失った声が、喉の奥で高い笛のように鳴る。