わたしはゆっくりと手を離すと、バッグから蛍石のブレスレットを取り出した。
「……何だ、これ」
差し出したブレスレットを見て、ホタルの眉間に戸惑いの皺が浮かぶ。
「お守り。ホタルのために作ったの」
「は? バカか。僕を守ってどうするんだ。お前は蒼の幸せを願ってたんだろ?」
「もちろん今も願ってるよ」
「だったらなんで。僕がいなくなれば蒼は幸せになれる。水泳もまたできるようになる。
でも僕がいる限り、あいつは――」
「わかってるよ。けどわたしは、ホタルに消えてほしくないの」
「矛盾してる」
「それもわかってる」
押し問答にホタルがため息をついた。わたしはほとんど強引に、ブレスレットを彼の左手首に着けた。
「考えて考えて、嫌になるくらい考えて、たどり着いたのがこの矛盾なの。
どうすればいいのかなんてわかんない。正解も出てこない。
だから決めたんだ。わたしのしたいようにする」
「どうせ後悔するぞ」
「したらそのときにまた考える」
「ムダに傷つくだけだ」
「じゃあ傷ついたときに泣くよ。でも今はまだ違う」
「話にならないな」
ホタルがもう一度大きなため息をつき、顔を伏せた。