「なんで……」


ようやくわたしの口から出た声は、か細くて風にかき消されそうになる。


「なんで、花江くんがいるの……」


喉が小刻みに震え、鼻の奥が痛くなってくる。


「なんでっ……止めたの」


つうっと涙が目じりからこめかみに伝った。


なんで止めたの? 
なんで助けたの? 

わたしなんて、海に飲まれちゃえばよかったのに。


仰向けに倒れたまま声を殺して泣くわたしに、花江くんは何も言わない。

ただ、わたしの腕をしっかりとつかんで離さない彼の左手が、「死ぬな」と言っているように感じた。