……意識がゆらゆらしている。また、あの海で溺れているみたいに。

だけど違う。ここは蒼の中。
遠くで、ノイズがかかったような声が聞こえていた。


「まさか治療がこんなに順調にいくなんてね。先生も驚いてたわ」

「うん。もう何日もホタルは出てきてないよ」


あの声は、蒼と……蒼の養母か。キッチンの音もかすかに聞こえるから、おそらく家にいるのだろう。


「じゃあ、うまくいけば次の診察で?」

「……そうなるかもしれない」


まるで分厚い水の膜に阻まれたみたいだ。ついこないだまでは蒼の目を通して見えていた外の世界が、今ではほとんど見えなくなった。

それどころか最近じゃ意識は常に白濁し、大半が眠りの中にいる。自分の意志で人格を交代させることも、もはやできなくなっていた。


このまま僕は力を失って、近いうちに消えてしまうんだろうか。

別にそれでもいい、とやけにあっさり思う。

なぜだろう、自分の存在が消えようとしている今、復讐という目的は指の間をすり抜けて。再びつかまえようと思うほどの気力すら、今はもう残ってはいない。