あのときのわたしは本気でそう思っていた。彼の左手は人を傷つけるためのものだと、忌々しさすら感じていた。

……だけど今ならわかる。あれは、彼の孤独に追い打ちをかけるセリフだったと。

ホタルは人を傷つけたいわけじゃない。ただ、他の穏やかな方法を知らずに生きてきただけだ。

けれどそんな自分自身を、たぶん彼は心の奥で恥じていて。

だから、こうしてわたしを傷つけてしまったことにショックを受けて逃げ出したのだろう。


「っ、ホタル……」

「どこ行くんだよ、真緒!」


今すぐホタルに、あなたは悪くないと伝えたかった。とっさに追いかけようとしたわたしを蒼ちゃんが止めた。

わたしは我に返り、蒼ちゃんの顔を凝視した。


『どこ行くんだよ』


ああ……そうだ。わたしは一体、どこに追いかけようとしたんだろう。

ホタルは今、わたしと同じ世界にいない。けっして手の届かない場所にいる。

目の前にはさっきまでと同じ顔があるけれど、それはもう彼じゃない……。