「早く帰って冷やそう」

「うん……」

と答えたものの、すぐに立ち上がることができなかった。

肩に手をそえてくれる蒼ちゃんを見上げ、わたしはふと気になったことを口にした。


「そういえば、どうしていきなり蒼ちゃんに交代したの?」

「ホタルが自分から引っ込んだんだ」


自分から?


「突然入ってきて、俺が押し出されるような形になった。あんな風に逃げるホタルを見たのは初めてだった」


……わたしもあんな彼を見たのは初めてだ。

さっきのホタルの顔が脳裏によみがえる。わたしを傷つけてしまったことに彼も深く傷ついた、そんな顔。

たまたま左手が当たってしまっただけなのに、どうしてあんな顔をしたんだろう。

そう考えて、あ、と思い出した。

以前、ホタルとケンカをしたときにわたしが口走ったセリフ――。


『何よ、殴るの? あんた、人を傷つけるのは得意だもんね?』