それはすさまじい防御本能だった。逃げてはいけないと頭ではわかっていても、心と体が強烈にホタルの統合を拒んだ。

だって、考えてもみてほしい。

幼い頃のやさしい母と過ごした日々が、俺にとって唯一の心のよりどころで。

なのにホタルを統合するということは、その思い出が上塗りされるということだ。

あのやさしかった母の記憶が、自分を殺そうとした母の記憶になる、それを受け入れなくてはいけないということだ。


だから。だから俺は――。


両親や先生に嘘をついてしまったんだ。

ホタルが無事に統合した、と。


本当は俺の心の一番奥に……そう、真っ暗な海の底に、眠ったホタルを閉じ込めたまま。



その後の診察でも俺はホタルの存在を隠しきった。

この病気の診断は難しく、ましてや11歳の子どもが芝居を打つなんて誰も思わなかったんだろう。だから先生も両親も、俺の嘘を信じてくれたんだ。

3年に及ぶ治療はこうして終了となった。