「一番最後まで残った交代人格が、ホタルだったの。彼はとても警戒心が強くて、なかなか先生の前に姿を現してくれなくてね。
ちなみにわたしたち夫婦も、ホタルとは一度も話したことがないのよ」
だから真緒ちゃんに負けたわね、とおばさんが肩をすくめる。
空気をなごませようとしてくれているのが伝わり、わたしも少しだけ笑った。
「それで、ホタルはどうなったんですか?」
「3年に及ぶ治療の末に、ようやくホタルも統合された……はずだった。なのにまさか、今になってまた現れるなんて」
語尾が暗く沈んでいき、話はそこで終了した。
これ以上のことはおばさんにもわからないのだろう。
わたしは今聞いた話を頭の中で整理し、さっきの疑問の答えを見つけた。
蒼ちゃんが今、ホタルの存在に気づいていない理由。
それは、ホタルが一度消えたはずの人格だからだ。
治療を無事に終えたはずだったのに、まさか再び現れるなんて、想像していないだろうし、想像したくもないだろう。