「あ……あの」


何か言おうとは思うものの、焦るばかりで言葉が出てこない。
庭の飛び石を踏む、草履の音が不気味に響いた。


「手伝いをサボって男と逢引きか?」


忌々しそうな目つきが、ホタルの方をちらりと向く。


「いい身分だな。誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ」


再びわたしに向けられた目は、嗜虐的にすら感じられた。


「恥を知れ」


高く振り上げた手のひらが、頬をめがけて飛んできた。

殴られる――とっさに身構えた次の瞬間、なぜか痛みはなく、張りつめた音だけがあたりに響いた。

地面に倒れたのはホタルだった。
本来なら、わたしがそうなるはずだった代わりに。


「ホタルっ……!」


わたしは弾かれたように、ホタルの横にしゃがみこんだ。

動転するわたしとは裏腹に、彼は落ち着き払った様子で上体をのそりと起こす。

おじいちゃんが舌打ちをして、粗暴な足取りで家の中に戻っていった。