「ところで、首都圏進出の話なんですけど」
「何か進展があったのか?」
「はい、ちょっといい情報が」
ふたりの会話を聞き流しながら、ビール瓶を持って部屋を出た。
前回の宴会からそれほど日が経っていないのに、今日もまたおじいちゃんは会社の人たちを連れてきた。
おかげでお母さんもわたしも、息つく間もなくこき使われている。
今回はいつもより人数が多く、台所の床はすぐに空き瓶だらけになった。
「お母さん、これ外に出しとこうか」
「そうね。持てる分だけでいいから、お願い」
コンテナケースに空き瓶を並べて持ち上げた。
予想以上に重く、体がふらつきそうになる。
だけど心配そうな視線を背中に感じたので、わたしは平気なふりをして外へと運び出した。
思いがけない人物に出くわしたのは、空き瓶を庭のすみに置いて、顔を上げたときだった。
門柱にもたれるようにして彼は立っていた。
「蒼ちゃ……」
と呼びかけたけれど、途中で気づく。
蒼ちゃんじゃない、ホタルだ。