「神様、早紀に届けて」


そうお願いところで、当然返事なんてない。
それでも……。


「早紀にあげるって、約束、したの」


こぼれそうになる涙をこらえ、必死に口角をあげる。
野上先生が言っていたように、早紀が私との時間を楽しいと思っていてくれたのなら、笑っていなくちゃ。


「そっか。私も一緒じゃないとね」


このまま食べずにいたら、早紀は心配するに違いない。
私は箸を手にして、卵焼きを口に運んだ。


「おいしいね、早紀」


チーズ入りの卵焼きは、早紀の好物だ。

高校に入学して初めて早紀と会話を交わしてから、私たちはすぐに仲良くなった。
それからいつもお弁当を一緒に食べるようになり、このまま楽しい高校生活が続くと信じて疑わなかった。


ふと空を見上げると、真夏より幾分か柔らかく輝く初秋の太陽。
角度を下げて木々を照らすその光は、長い影を作り出す。