【瀬戸先生、ありがとうございました! 三浦サキ】

【先生の授業わかりやすかったです。 西山サトシ】

【卒業したらデートしてください(笑) 金子ユミ】


思い思いの言葉が、所せましと書かれている色紙。

わたしはその上でペンを泳がせながら、何を書こうかしばらく悩んだ。


そして、ふっと胸に浮かんだ言葉を、色紙のすみに小さな文字で書きこんだ。






タイショーの最後の授業は、いつになく緊張した雰囲気だった。

いつものオバチャン教師だけではなく、校長先生や教頭先生も、後ろで見学していたからだ。


けれど、タイショーは立派だった。教室全体を見まわして、堂々とした態度で、最後までやり遂げた。


授業が終わると、クラスメイトの代表が色紙を渡した。

彼は満面の笑みで受け取り、そして深々とみんなにお辞儀をした。


あぁ、終わったんだな。その光景をぼんやり見ながら、わたしは思った。


明日になれば、タイショーはまたわたしの世界から消えて。
わたしはまた、2週間前までと同じ世界で生きていく。

‥‥‥いや、ちがうか。それは同じようで、ちがう世界だ。


高校生のタイショーを失っただけじゃない。
大人になったタイショーも失った世界。


髪が黒くて、スーツを着ていて、みんなの前では先生で、でもわたしの前でだけ少し素顔を見せてくれた。

そんなタイショーをも、失った世界。