いっそ、眠っている間に記憶がなくなればよかったのに。
タイショーを失った世界に残されたのは、押しつぶされそうなほどの自己嫌悪と、罪悪感。
そしてそれは、4年がたった今でも完全に消えることはなく、わたしの心に澱のように溜まっている。
* * *
「―――あなたたちの間にあった出来事を、わたしは瀬戸くんから聞いたわけじゃない。彼と同じ高校の友達から、事故について教えてもらっただけよ」
静かな保健室で、平井先生は淡々と言った。
「でも、どんな事情であれ、彼のバイクであなたが事故を起こした。そして、あなたは彼の恋人の妹だった。その事実は変わりないよね。この意味、わかる?
今日みたいに、ただの貧血でも、彼にしてみれば事故の後遺症じゃないかって不安になるのよ」
視界のはしで、平井先生の拳にギュッと力が入る。
そして彼女は、放心状態のわたしに、きっぱりと言い放った。
「もし、あなたがまた彼に近づこうとするなら、それは彼の罪悪感につけこむ行為だと思う 。
瀬戸くんはあなたになんて、再会したくなかったはずよ」