「俺が、思わせぶりなことをしたんだ」
「‥‥‥」
「本当にごめん」
体が砂になって、ぱらぱらと風に飛ばされていくような気がした。
ひどい耳鳴りがして、彼の声にエコーがかかる。
「でも、もうしないから」
わたしは聞きたくなくて、首をふった。
タイショー、いやだよ、やめて‥‥‥。
「お前んちに行くことも、明日からはない」
お願い、そんなこと言わないで‥‥‥。
「これ以上、お前に関わらないから。だから今日は帰ろう、な。送ってくよ」
こっちに来ないで‥‥‥!
一気に頭に血が上り、視界がぐらぐら揺れる。
差し伸べられた手をふり払い、わたしは原付のエンジンをかけた。
目の前の現実から逃げ出したい。その一心で、力まかせにスロットルを回した。
「葉月―――!」
背後でタイショーの声が響いていた。