「いや、ほんとは前からダメだったんだ。ふたりで会えば、ケンカばっかで。
俺は全然、あいつを安心させてやれねぇし、あいつも俺の全部を疑うようになってた。
信じてもらいたいって最初は思ってたけど、いいかげん、嫌になってきて‥‥‥
あげくの果てに、これだもんな」
ほとんど独り言のようにタイショーは言って、語尾に乾いた笑いをつけた。
「ごめん。帰るわ」
そう言って原付を降りると、部屋に置いたコートを取りにいこうと、玄関へ向かう。
“もしも、姉とタイショーが別れたら”
昨日想像したことが、現実に起きようとしているのだと、わかった。
「ま‥‥待って」
わたしは、喉からしぼり出すような声で言った。
「帰らないで‥‥‥」
帰ったら、きっと、二度とここにはやって来ない。
「タイショー‥‥‥っ」
行かないで、お願い。
言葉で懇願しても、力で引き留めようとしても、きっとわたしじゃタイショーを阻止できない。
じゃあ、切れかけた糸をつなぎとめるためには、どうすればいいの?