「‥‥っ、ミホ!」
姉がきびすを返し、自転車に乗って去っていく。それを追いかけるように、タイショーが部屋を飛び出していく。
「待って! タイショー!」
わたしは震える足で、彼の背中を必死で追った。
とても現実とは思えない事態に、悪夢を見ている気持ちになりながら。
靴のかかとを踏んで庭に出ると、タイショーは原付にまたがり、スペアキーをさし込もうとしているところだった。
「タイショー!」
わたしは彼に駆け寄った。キーはすでに完全にささっている。彼の手がそれを回せば、エンジンがかかる。ぐっと右手に力がこもった。
―――ところが。
彼はなぜか、その状態でしばらく固まったかと思うと、エンジンをかけずにキーから手を離した。
「‥‥‥タイショー‥‥?」
ぶらんと脱力しておろした腕。ふいに自虐的な笑いが、タイショーの口からこぼれた。
「たぶん、もうダメなんだろうな」
「え?」
どういうこと‥‥‥?