心臓が、凍った気がした。
もっとも聞きたくない言葉を、言われてしまったから。

勝ち誇るような彼女から視線を落とし、わたしは力なく笑った。


「なんだ。平井先生も知ってるんですか‥‥‥あのこと」


罪悪感。
それを言うなら、わたしの方がよっぽどだろう。



―――『たぶんもう、ダメなんだろうな』


よみがえる光景。


―――『こんなとこにいたのか』


時間の砂の、いちばん深くに埋めた記憶。
彼女はそれを掘り起こし、わたしの目の前に突きつけてきたのだ。


4年前のあの日、
たった一度だけタイショーと交わしたキスの、直後に起こった出来事を‥‥‥。





 * * *


カチャン、と小さな金属音が、たしかに聞こえてはいたんだ。

けれどあのとき、わたしは突然のキスで頭が真っ白になっていて。

その音の方に、まったく気が回っていなかった。


「どうして‥‥‥」


背後から聞こえた声。
わたしとタイショーは、弾かれたようにベッドから体を起こした。


「どうして、葉月にキスしてんの」


真っ青な顔をした姉が、窓のむこうに立っていた。