‥‥‥そう。
それが、わたしが2回目に見たタイショーのキス。
もっとも、あれを純粋にキスと呼べるのかは疑問だし
“見た”のではなく“した”のだけど―――
「―――はづき‥‥葉月」
「っ、はい!」
呼ばれているのに気づき、わたしはビクッと反応した。
目の前には、怪訝そうに見つめてくるお母さんの顔。
「さっきから何回も呼んでるのに、どうしたの」
「別に‥‥‥ボーっとしてただけだよ」
「ほんとに大丈夫? 顔色、悪いけど」
「うん。今日はもう休むね」
心配そうなお母さんを振り切って、わたしは自分の部屋に入った。
そっとドアを閉めて、見慣れた自室をながめる。
窓から外に目をやれば、またタイショーが原付に乗って現れて、あの頃みたいに声をかけてくれる気がした。
―――『よぉ、ハヅキング』
そう言って、茶色い髪を揺らしながら、ちょっと意地悪っぽい笑顔で‥‥‥。
あぁ、だめだ。わたしの心は非常事態になってしまった。
タイショーが再び現れた日から、気づけば昔の記憶ばかり反芻している。
わたしは脱力して、倒れるようにベッドに寝転んだ。
きしむスプリングの音が、さっきまで回想していた出来事を、生々しく思い出させた。