「うわ、冷たいっ」
「走れっ!」
タイショーが叫ぶ。
彼の大きな手が、わたしの腕を力強くつかんだ。
あっという間に水浸しになっていく道路を、バシャン、バシャンと豪快な音を鳴らしながら、ふたりで走った。
時々、「わー」とか「ぎゃー」とか叫ぶせいで、口の中に雨がたくさん入った。
「駅、駅まだか!」
息を切らしながらタイショーが言う。
「あとちょっと!」
ずぶ濡れで走るわたしたちを、すれ違う車の人が変な目で見てくる。
「ちくしょー、走れ!」
息は上がり、服は濡れて重たくて、散々なはずなのに、わたしたちは少しずつ楽しくなっていた。
子どもの泥んこ遊びのような気分。
一種の爽快さが、胸を突き抜けていたのだ。
しばらくすると、やっと駅が見えてきた。
わたしたちは最後の力を振りしぼり、全速力で駅舎に駆けこんだ。