「どうしたの?」
「ふたりにしてあげよっかなって」
「え?」
てっきりあのおじさんが苦手とか、そういう理由かと思っていた私は、拍子抜けする。
どこ行く? と言われ、うーんと考えた。
「林太郎の通ってた学校」
「ほんなん、僕まで懐かしいわ」
笑いながら、こっちやよ、と来たのとは反対のほうへ歩きだす。
並ぶと、僕のお、と口を開いた。
「誰にも言ってないんやけどね、お父さんのほんとの子や、ないんよ」
「はっ?」
こんな快晴の昼下がりに、なんの話?
「じゃ、誰の子なのよ」
「本人たちに聞いたわけやないけど、さっきのあの人、たぶん、そうやと思う」
「あれ、誰?」
「ご近所さんでの、母さんの幼なじみみたいなもん。お父さんとうまくいかんくなった頃、たぶん母さん、あの人と仲よくしてたんよ」
はあ、と言うしかなかった。
何その、ドラマみたいな話。
「で、あんたはそれ、なんで知ってるの」
「お父さんが教えてくれた」
「えっ」
「よく聞け林、言っての。お前は俺の息子として生まれながら、このクズの血を継いでいない、こんな幸運はないぞ、って」
笑っていいものか迷ったけれど、林太郎が愉快そうにしていたので、一緒に笑った。
あの村長らしいや。
「そっか、それで血液型」
「母さんも迂闊やわ、僕『知らんけどたぶんA型やよ』って言われて育ったんよ、ほんなんバレんの、時間の問題やがのお」
確かに迂闊だ。
村長が、偏屈なイメージのとおりAB型なのは有名な話だ。
要するに林太郎がいずれ自分の出自に疑問を持つのは、必然だったわけだ。
「元はと言えば、お父さんの遊び癖が根っこやけど、ああ見えてお父さん、母さんを好きやったと思うんよ」
「おばさんは?」
「母さんも。ほやで申し訳なくて、同じ家に住めんくなってんたんやと思う」
田園風景の、少し先には、町らしき建物の群れが見える。
あの中に小学校があるんだろう。