とん、とん、とまな板を叩く包丁の音。

それを聞いていると、家の台所に立っているような気がして、気持ちが落ち着いてくる。


ふと、視線を感じた。

顔をあげて、首を巡らせる。

向こうの調理場に立っている雪夜くんと、目が合った。


雪夜くんは、火付け用のマッチ箱を持った手をだらりと垂らし、こちらを見ている。

なんだろう、と思いつつも、何も反応しないのもおかしいかな、と思って、私は小さく手を振ってみた。


その瞬間、彼ははっとしたように顔を強ばらせて、くるりと身を翻した。

視界から姿を消した雪夜くんの代わりに、その後ろに立っていたらしい嵐くんの姿が見える。


振りかけた手が意味を失ってしまい、私はばつの悪い気持ちになった。

ゆるゆると手を下ろすと、嵐くんがにこっと笑って手を振ってくれた。


少しほっとして、私も手を振り返す。

雪夜くんはかまどにしゃがみこんで、薪の間に丸めた新聞紙に火を付けていた。


よく分からない。

雪夜くんは、本当に、何を考えているのか分からない。


でも、どうしてだろう。

気がつくと私は、雪夜くんを目で追ってしまうのだ。


私にいつも素っ気ない態度をとるその姿を。

私を視界に入れないように背けられる横顔を。