「……さん、霧原さん」


自分の考えに深く沈みこんでいたので、背後から唐突に声をかけられて、驚きに肩を震わせてしまった。


「あ、ごめん! びっくりさせて」


慌てて謝ってきたのは、同じクラスの葛西くんだ。

出席番号が私の一つ前なので、数回だけれど、言葉を交わしたことがあった。


「こっちこそ、ぼうっとしててごめん」


謝り返すと、葛西くんはくしゃりと笑った。


「あのさ、一つ確認しときたいことがあって」

「うん、なに?」

「係決め書いた紙、家に忘れてきちゃってさ。霧原さんって、調理のほうで良かったよな?」


葛西くんが訊ねてきたのは、昼食作りの役割分担のことだ。

私たちは同じ班で、一緒にカレーを作ることになっていた。


「うん、そうだよ」と頷くと、葛西くんは「オッケー、じゃあ、また後で」と軽く手を振って去って行った。


その後ろ姿を見送りながら、気持ちを切り換えなきゃ、と私は自分に言い聞かせる。

今日は、年に一回の遠足。

高校に入ってはじめての行事。

こんな日に、ぼんやりと考え事なんかしていたらもったいない。

せっかく梨花ちゃんと同じ班になれたのだから、楽しみたい。


そう思って梨花ちゃんの姿を探そうと視線を巡らせると、雪夜くんと目が合ったので驚いた。

さっきまで空を見上げていた彼は、今はこちらをじっと見ている。

でも、すぐに視線は逸らされた。


私は不思議に思いながらも、先生に促されてバスに乗り込んだ。