私は毎朝、学校に着いて教室に入り、席につくと、必ず左側に目を向ける。


校庭に面した明るい窓際の、いちばん後ろの席。

『遠藤 雪夜』の席。


教科書もノートものせられたことがない机は、とても居心地が悪そうに、肩身の狭い思いをしているように見える。

誰も腰を下ろしたことがない椅子は、とてもさみしそうにひっそりと佇んでいる。


彼らはきっと、まだ見ぬ『遠藤 雪夜』を待っているのだと思う。

たぶん、このクラスで唯一、『遠藤 雪夜』を待っている存在。


どんな子なんだろう、と私はときどき考える。

頬杖をついて、やわらかい春の陽射しを受ける無人の席を見つめながら。


うちの学校は、出席番号が男女混合になっている。

だから、『遠藤 雪夜』という性別のはっきりしない名前だけでは、男子なのか女子なのかも分からない。


なんとなく、『ゆきよ』ちゃん、という女の子じゃないかな、と私は予想している。


きっと、色白で物静かな、かわいい女の子。

そういう子だったら、仲良くなれそうだ。