私の驚きをよそに、嵐くんも平然と、「俺、あんま金ないから、ファミレスとかがいいな」と言いながらあたりを見回している。

梨花ちゃんが「雪夜も連絡なくてオーケーな感じ?」と訊ねると、雪夜くんは「まあ」と気のなさそうな返事をして、向こうの通りをぼんやりと見ていた。


誰も、私のさっきの言葉を、『お母さんがいない』という言葉を気にしている様子がない。

そのことが、私にとってどれほど嬉しくて、助かることなのか、この三人はきっと分かっていないだろう。


私のお母さんが死んだのは、まだ私がほんの子供だった頃のことだし、お父さんと佐絵のおかげで、寂しさを感じることもない。

だから私には、自分にお母さんがいないことを悲しんだり、他の人にはお母さんがいることを羨んだりする気持ちはない。


お母さんがいないことよりもっと悲しかったのは、それを知ったときの周りの人の表情を見ることだった。


たとえば、友達同士で家族の話になったとき。

『お父さんはどんな仕事してる人? お母さんは働いてる? 怒ると怖い?』

当たり前のように、皆はそういう会話をする。

それは普通のことだし、私も、友達の親がどんな人なのかを聞くのは楽しいから好きだ。


でも、『じゃ、美冬ちゃんの家は?』と聞かれると、とたんに残念な気持ちになってしまう。