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うちのクラスには、『幽霊』がいる。
もちろん、本物の幽霊、という意味ではなくて。
入学式から三週間が経った今も、まだ一度も学校に来ていないクラスメイトがいるのだ。
―――『遠藤 雪夜』。
その名前は、教卓の上の座席表にもクラスの名簿にもちゃんと載っている。
それなのに、まだ誰も姿を見たことがない。
最初の一週間ほどは、クラスのみんなの間でも、この謎のクラスメイトについてさまざまな噂話がまわっていた。
「中学校でいじめられていて、二年のときからずっと不登校らしいよ」とか。
「不治の病に冒されていて、闘病中なんだって」とか。
「ものすごい不良で、警察のお世話になってるって聞いた」とか。
でも、どれもこれも根も葉もない噂で。
『遠藤 雪夜』がどこの中学出身なのかさえ、誰も知らないのだった。
そのせいか、いつの間にか、誰ひとり『遠藤 雪夜』について話す人はいなくなってしまった。
まるで、その席はもともと空席だというように、そこには誰もいないみたいに。
みんなの意識の中から追い出されて、みんなの視界には入らなくなってしまった。
いるのに、いない。
まるで幽霊みたいなクラスメイト。