「神様。あなたの望むものを、なんだって捧げます。美冬を助けてくれるのなら、なんだって」


うつろに目を開けていることさえできなくなって、ゆっくりと瞼が下りてくる。

雪夜くんの声だけが、私の世界の全てになる。


「美冬を救うためなら、なんだってします」


ちがう。

雪夜くんにそんなことを言わせたかったんじゃない。


私が雪夜くんを助けたのは……。


「どんなに恐ろしい目に遭っても、どんなに苦しいことがあっても、少しもつらくない。たとえなにを失っても、なんとも思わない」


ねえ、雪夜くん。

そんなことを、言っちゃだめ。


「美冬以外のものなら、なにを失ったって惜しくはありません」


そんなふうに思われたら、とても悲しい。

とても苦しい。


雪夜くんには、もうこれ以上、失ってほしくない。

雪夜くんには、もう何ひとつ、失ってほしくない。


君は、もう十分、失ってきたんだから。

大切なものを、たくさん、たくさん、失ってきたんだから。


大好きな家族も、幸せな生活も、なにもかも失ってひとりで生きてきたんだから。


「どうしても助けたいんです。美冬だけは、どうしても、助けなくてはならないんです」


ちがう。ちがう。
そんなことはない。


だって、私にとっては、雪夜くんこそが一番なのに。

何よりも大切なのに。

誰よりも幸せになってほしいのに。


「だって、俺が美冬から大事なものを奪って苦しめたんだから」


ちがう。

雪夜くんが罪を背負うことなんてない。